責任ある判断を、より速く。AIでDOOH広告審査業務を効率化するLIVE BOARD×ドコモの挑戦

(写真左から)LIVE BOARD メディア部 佐藤 晃輝、LIVE BOARD メディア部 審査担当 畠山 友美
NTTドコモ クロステック開発部 関根 ありさ 氏、NTTドコモ クロステック開発部 熊谷 颯人 氏
昨今、ビジネスシーンでのAI活用は広がりを見せていますが、OOH(アウト・オブ・ホーム)業界でも活用が本格化しようとしています。特に注目されているのは、AIによる広告審査業務の効率化です。
株式会社 LIVE BOARD(以下、LIVE BOARD)は、株式会社NTTドコモ(以下、NTTドコモ)と共同で、自社が運営するデジタルOOH※1(以下、DOOH)の広告主審査に特化したAI技術を開発しました。これまで、専門知識を有する担当者が行ってきた審査業務にAIを活用することで、企業情報などの最新情報を元に数分で一次判定できる仕組みを構築しました。これにより、業務の3割以上の効率化が見込まれます。
本インタビューでは、LIVE BOARDとNTTドコモの開発メンバーに、開発の背景や技術的チャレンジ、そしてAIを活用した広告審査の新しい可能性について伺いました。
対談者
LIVE BOARD メディア部 佐藤 晃輝
LIVE BOARD メディア部 審査担当 畠山 友美
NTTドコモ クロステック開発部 熊谷 颯人 氏
NTTドコモ クロステック開発部 関根 ありさ 氏
広告主審査に求められる責任と専門性
-そもそもDOOHの広告審査とは何か、一般的になかなかイメージしづらいかもしれません。DOOHの審査とはどのようなものなのでしょうか?
LIVE BOARD 佐藤(以下、LB 佐藤):DOOHにおける広告審査は、大きく分けて「広告主審査」と「意匠審査(放映する広告素材の内容審査)」があります。DOOHは、強制視認性があり公共性の高いメディアなので、審査基準は非常に厳格です。LIVE BOARDでは独自のガイドラインに基づき、広告主審査では企業や商材の信頼性を、意匠審査では法令や放送倫理、視聴者への影響などを確認しています。現状、これらの審査に必要な情報収集やガイドラインとの照合プロセスは、専門知識を持つ担当者が一つひとつ丁寧に行っています。
-今回は広告主審査に特化したAIを開発されましたが、これまでの「広告主審査」には、どのような課題があったのでしょうか?
LIVE BOARD 畠山(以下、畠山):審査は高度な判断と専門性が求められるため、時間を要する作業でした。具体的には、公式サイトやWeb上の公開情報などを通じて企業・商材の概要を把握し、最新の法令遵守状況に問題がないかをチェックするなど、「社会的信頼性」の基準を満たしているかを多角的に判断しています。この際、その時々の社会情勢も考慮し、「広告に触れる方々に不快感を与えないか」といった観点も含まれます。
公共性の高いDOOHでの放映という性質上、判断には慎重さが求められます。正確な結論に至るには多角的な調査が必要で、どうしても一定の時間を要していました。加えて、業種・業態ごとの審査基準や地域ごとのルール、社会的な受け止められ方を踏まえた判断が求められるため、審査には法的知識や媒体特有の専門知識、さらには幅広い社会理解が欠かせません。こうした知識や経験値は、個々の担当者に蓄積されやすく、組織内でのノウハウ化が難しいという課題もありました。これはLIVE BOARDに限らず、DOOH業界全体に共通する課題だと捉えています。
-かなり細やかな調査が必要で、責任も専門性も高い業務ということですね。さらに、LIVE BOARDは全国に60,000面以上のネットワークで構成されているプログラマティックDOOH(以下、pDOOH)です。pDOOHならではの審査の難しさはあるのでしょうか?
LB 畠山:やはりスピードです。LIVE BOARDはデジタル広告の延長線上で活用されるケースも多く、デジタル媒体と同等のスピード感で審査結果を求められるケースが少なくありません。
DOOH業界では、審査回答まで複数営業日を要するのが一般的ですが、即日での回答を求められることもあります。従来の人手による審査プロセスでは、どうしても時間を要するため、スピードを求められる運用への対応が大きな課題となっていました。
(写真左から)LIVE BOARD 佐藤 氏、LIVE BOARD 畠山 氏
スピードと正確性を両立する広告主審査AI技術
-どのような経緯で審査AI技術の開発がスタートしたのでしょうか?
NTTドコモ 熊谷 氏(以下、ドコモ熊谷氏):これまでLIVE BOARDとは、インプレッションの算出を始め、ドコモの位置情報などを活用した技術開発とソリューションの開発に取り組んできました。ドコモではDOOHだけでなく、Webも含めた広告全体の効率化や最適化にも取り組んでおり、さまざまな広告技術の開発を推進しています。
今回、DOOHにおける審査の課題を伺い、審査AI技術の開発はドコモの技術を幅広く活かせる機会だと感じ、ぜひ協力していきたいと思いました。
-ドコモの広告技術事業における方向性とLIVE BOARDの課題感が合致したということですね。では、どのように「審査AI技術」の開発が行われ、結果としてどのようなものがアウトプットされる仕組みを構築されたのでしょうか?
NTTドコモ 関根氏(以下、ドコモ 関根氏):まず開発に着手する前に、LIVE BOARDから審査の実務フローや具体的なボトルネックを詳しくヒアリングし、課題を明確化するところから始めました。先ほど畠山さんがおっしゃっていたように、これまでの広告主審査は膨大な情報を様々な観点で一つずつ手作業で確認を行っている状況でした。この点を効率化し、課題をしっかり解決できる、使いやすいシステムを作ることを意識しました。
具体的には、アプリ上で企業名や商材、公式URLを入力すると、約2分程度で「会社概要」「法令遵守状況」「社会的評判」といった軸で調査結果が表示されます。この情報をもとに、掲出可否(掲出可、要二次審査、掲出不可)判定とその理由も同時に確認できます。

図1. 本技術の利用イメージ
-サンプルを拝見した際、レポートの詳細さと正確性に驚きました。開発で特に注力された点や、工夫した点はありますか?
ドコモ 熊谷 氏:最も重視したのは、情報の正確性と鮮度です。例えば、過去に法令遵守状況に関する記録がある場合、いつどのような措置が講じられ、企業側がその後どのような対応をとったのか、時系列で把握できるようにしています。社会情勢や事実関係の変化が激しい現代において、審査時点の最新情報を正しく取得することが、判断の妥当性を高めるために極めて重要だと感じています。
(写真左から)NTTドコモ 熊谷 氏、関根 氏
ドコモ 関根 氏:開発当初は、「必要な情報を過不足なく出力させる」という期待通りになかなか行きませんでした。この課題をクリアするために、「WEB検索型グラウンディング技術※2」を導入しました。その結果、最新の詳細情報を取得することができ、回答結果のエビデンスの正確性を確立できました。加えて、実際の審査手順をアルゴリズムに組み込んだ点も工夫の一つです。人が審査を行う際と同じ尺度で情報を収集させるため、現場で実際に使われている「検索ワード」などをプログラムに反映させています。

図2.仕組みや技術の詳細イメージ
LB 畠山:判定結果のサンプルを見て、私たちが普段行っている審査の情報量や判断軸と合致していると感じました。世間の動きが早い中で、情報の粒度が過不足ない形で確認できるのは、非常に心強く思います。実際の運用では、AIのアウトプットを踏まえて、審査担当がLIVE BOARDとしての回答を出す形となります。最終的には人が判断しますが、調査の手間が大幅に軽減される分、業務の約3割以上を効率化できると期待しています。
LB 佐藤:「AIを活用した審査」は広告業界においても各社取り組みが進んでいる領域ですが、今回のLIVE BOARDの審査AIでは、「WEB検索型グラウンディング技術」を導入することで常に最新情報に基づいたリスク示唆が可能である点が大きな特長です。
また、弊社が運営するDOOHはネットワーク型メディアのため、社内のガイドラインや内規に加え、各ビジョンのビルオーナーごとに異なる意向や判断基準を踏まえた審査が求められます。
今回の開発では、こうした特性を考慮いただき、ビジョンが設置されている各ビルごとに異なるオーナー様の意向や審査基準をインプットし、各ビジョン単位での個別判断を提示する仕組みを構築していただきました。
DOOHネットワークを運営するLIVE BOARDならではの事業特性を踏まえた設計そのものが、今回の審査AI開発における大きな強みだと考えています。
審査AI技術を通して、専門性を担保しながら「責任ある判断」を短時間で出せるようになることは、広告主様への回答速度にも直結します。ビジネスチャンスを逃さない体制づくりという点でも非常に価値があると思います。
広告主審査AI技術の次は?意匠審査AI技術への挑戦
-広告主審査AI技術の開発は、現場に寄り添った細やかな取り組みの賜物だったのですね。今後は、意匠審査のAI技術開発も期待してよいのでしょうか?
LB 佐藤:ぜひ実現させたいですね。意匠審査は広告主審査と比べ、審査量が格段に多くなります。pDOOHの特性上、広告素材は動画が中心で、素材の本数も膨大です。さらに地域別・モーメント(時間や状況)別で出し分ける場合は、確認作業が掛け算的に増えるため、効率化のハードルはさらに高くなります。
LB 畠山:審査内容も非常に細かいです。ガイドラインはありますが、視聴者に与える印象など、感覚的な判断が必要なケースもあります。判断が分かれる事例は複数人で慎重に確認しており、すべてを完全にAIで代替するのは難しそうです。
ただ、目視で確認する必要のない作業はAIで効率化したいですね。AIの定量的な判断を加えれば、「OKかそうでないか」の審査根拠をより明確にできますし、修正後の素材が正しく反映されているかの確認などもAIでサポートしてもらえそうです。こうして人的負荷を軽減し、審査の精度とスピードの両立を目指したいですね。
ドコモ 熊谷氏:動画素材はテキストデータとは桁違いの情報量になりますので、難易度は上がります。しかし、AIの得意分野もあります。定量化できる基準がある項目は、人よりもコンピューターが早く処理できますので、意匠審査にもAIを活用できる可能性は十分あると思います。今後は、LIVE BOARDと協議しながら、効率化によるコストパフォーマンスやタイムパフォーマンスを見極めつつ、優先度をつけて取り組んでいきたいですね。
LIVE BOARD×ドコモ AI技術開発における今後の展望
-ここまでお話を伺う中で、企業の枠組みを超えて、非常に近い距離感で相互に信頼し合いながら開発が進められてきたのだという印象を受けました。AI技術開発における今後の展望についてお聞かせいただけますか?
LB 畠山:DOOH広告における審査AI技術の開発という、極めて専門的で細かな領域の中で、「こうしてもらえたらもっとありがたい!」と無茶な要望をお伝えしたこともありました(笑)。それでも丁寧にヒアリングをしていただき、試行錯誤を重ねながらアウトプットしてもらえたことは、とても心強かったです。今後は、このAIを"育てていく"フェーズに入りますので、引き続き連携を深めていきたいと考えています。
ドコモ 熊谷 氏:AI技術開発においては、まずは学習させるためのデータがなければ始まりません。審査において何が必要なのか、「審査」とはどういうものなのかといった細かな点を、LIVE BOARDと何度もすり合わせながら、形にしていきました。開発して終わりではなく、AIの精度はもちろん、アプリとしてのUIなども含めて、使いにくい部分は一緒に改善し、より多くの方に活用してもらえる状態を目指していきたいと思っています。
LB 佐藤:LIVE BOARDには、これまでの業務を通じて蓄積してきた多くの知見があります。今後、そこに審査AIが組み合わさることで、組織としてもさらに強固になっていくはずです。
ドコモの高度な技術力と、LIVE BOARDが現場で積み重ねてきた実務知見が融合することで、両社の強みを生かしたこれまでにない取り組みに挑戦できていると考えています。最終的には、この審査AIを他の媒体社の方々にも活用してもらえるようになれば、業界全体の負担軽減にもつながるはずです。LIVE BOARDとしてだけでなく、業界全体の発展を見据えながら、第一線で挑戦を続けていきたいですね。

※1 Digital Out of Homeの略。交通広告、屋外広告、商業施設などに設置されたデジタルサイネージを活用した広告媒体
※2 AIが回答を生成する際、事前に学習したデータだけでなく、最新のWEB情報をリアルタイムで検索・参照し、その根拠(エビデンス)に基づいて回答を構成する技術のこと。これにより、情報の正確性と鮮度が飛躍的に向上します。
インタビュアー
株式会社 LIVE BOARD インサイト部 マーケティングディレクター 真能 広大

電通入社後、中部支社にて9年間、プロモーション/マーケティング領域のプランニングを経験したのち、アウトオブ・ホーム・メディア局に入局。LIVE BOARDのマーケティング/セールス戦略立案の他、「ヒト」を基点としたDOOHプランニング/効果検証の高度化に従事。現在は、LIVE BOARDインサイト部に出向。
(文:三谷 碧)